年次大会「プラネタリーヘルスジャパン〜和する経済といのちの循環」【開催レポート】

― 2026年 年次大会 開催報告 ―

一般社団法人 プラネタリーヘルスイニシアティブ(PHI) は、
2026年立春を越えた節目の日・2月7日に、年次大会を開催いたしました。

図らずも、解散総選挙の開票日と異例の大雪が重なる、社会も環境も大きく動く一日となりましたが、そのような中にあっても、全国各地から多くの皆さまにご参集いただきました。心より御礼申し上げます。
会場には、北は東北各県から南は鹿児島まで、全国各地より多くの実践者・研究者・自治体関係者・企業関係者が集いました。

プラネタリーヘルスを社会の基盤へ


本大会は、「プラネタリーヘルスを理念にとどめず、社会の基盤として実装していく」ことを目的に開催されました。人の健康、地域社会、経済、そして地球環境を切り分けず、一つの生命システムとして捉え直す――その視座を、思想・身体・食・医療・農・経済・政策、そして社会実装へつなげていくための重要な1日になりました。


当日は、選挙対応のため、赤澤亮正経済産業大臣大臣はご欠席となりましたが、「ネイチャーポジティブ宣言」を実現した鳥取県平井伸治知事、また、プラネタリーヘルスに賛同頂いている農林水産省山口靖農産局長が来賓としてご参加下さり、ご挨拶をいただきました。

鳥取県平井伸治知事
農林水産省山口靖農産局長

開会挨拶|「国語・算数・理科、プラネタリーヘルス」

開会にあたり、代表理事・桐村里紗より、

「国語・算数・理科、プラネタリーヘルス」

プラネタリーヘルスは、
この地球に生き、未来を紡ぐすべての人に関わる
新しい時代のリベラルアーツであり、実践である

というメッセージが共有されました。

立春を越え、2026年が本格的に始動するこの日に、プラネタリーヘルスを一気に社会へと開いていく決意が示され、大会は幕を開けました。


基調講演|分断された世界を「和合」させる

基調講演では、代表理事の桐村里紗が、医療、経済、環境、文化は本来つながっており、日本列島に古くから根づく「和合」の思想を、現代社会に取り戻す試みであると語りました。
医師としての経験から、病気の背景には個人の問題だけでなく、社会や経済、環境そのものの病理があることを指摘し、特に重要な「経済」のあり方について語りました。
私たちの暮らしはすべて経済の上に成り立っており、これまでの成長重視の経済が、地球環境や人の健康、地域を同時に疲弊させてきた現状があり、GDPでは評価できない自然資本や人の健康・幸福などの価値が評価されていないことを指摘。
その転換の鍵として示されたのが「流域」という視点です。流域における「稲作」を支える田んぼや森林は、食料生産にとどまらず、水を育み、蓄え、生態系を守り、人の心身を支え、食料安全保障を守る多面的な価値を持つ自然資本であり、これまでGDPでは評価されてこなかった価値を、再生型経済の基盤として捉え直す必要性が語られました。
また、プラネタリーヘルスは、新しい国際概念であるものの、国がすでに掲げている様々な政策を、 バラバラではなく、同時に実現していくための 共通の土台であることを示し、
「安全保障」「ネイチャーポジティブ」「サーキュラーエコノミー」「グリーントランスフォーメーション」「二地域居住」「ふるさと住民登録制度」などの政策を 一つの流域、一つの生命圏の中で、 同時に成立させていくための「地域未来戦略」につながる社会の設計図であり、その基盤の上に、人の健康や幸福が実現していくことを示しました。
最後には、誰もが、 ただの消費者でも、 ただの廃棄者でもなく、土地から生み出す生産者・再生者として生きる経済・社会の基盤を つくっていきたいというビジョンを示しました。

プログラム1|「和」の食文化とプラネタリーヘルス
― 稲作と人類学、そして持続可能なレストランの役割

登壇者

  • ファシリテーター 京都府立大学 名誉教授
    ふじのくに地球環境史ミュージアム 館長
    佐藤洋一郎
  • 日本サステイナブル・レストラン協会 理事
    レフェルヴェソンス エグゼクティブシェフ
    生江史伸
  • 文脈デザイン研究者、ブランドコンサルタント
    玉利康延

プログラム1では、「食」を通じた人という概念の拡張を試みるというテーマ設定の上で、「食」は、人を生態系、さらに「流域」と一体化する行為であり、工業化され、風土と切り離された食べ物が一般化している今、それを感受する「流域動態感受性」を高めることが重要であるという前提が共有されました。

稲作研究の権威である佐藤氏より日本列島における稲作の歴史や文化的背景が共有され、米づくりは「草木国土悉皆成仏」の精神であることが語られました。
ついで、6年連続でミシュランの3つ星を獲得しながら、リネジェラティブレストランを掲げる「レフェルヴェソンス」の生江シェフより、レフェルヴェソンスの理念を伝える動画が共有されました。
日本の美しさや自然のあり方は、人と自然との深い関係性に支えられてきたと述べ、狩猟や漁撈といった営みに立ち返ることが、自然との対話を再び始める手がかりになると語りました。レフェルヴェソンスでは、人と自然の相互作用を料理として表現することを目指しており、一皿一皿に込められた細やかな表現は、静かな美しさの体現であるといいます。また、レストランを、食事をする場にとどまらず、人が心を静め、学び、人としてのあり方を見つめ直し、自然との関係性を回復していくための場にしたいというリジェネラティブ・レストランとしての思いが共有されました。
「和食人類学」の研究者である玉利氏より、「和食」とは単なる料理の体系ではなく、地形・気候・生態系・技術・信仰・歴史が幾重にも積み重なった〈文化の積層〉そのものであるという視点が提示されました。日本列島に食スタイルが成立するまでの大陸からの各遺伝子を持った渡来人とともに伝来した食材や調理法、発酵技術などが紹介され、稲作の起源やそのルート、また味噌の変遷などを通じて、「和」食を通じて、人とは何か?日本人とは何か?という概念拡張が示されました。

本プログラムを通して、「食」は単なる消費行為ではなく、流域に積層してきた自然と文化、生命循環を最も直接的に身体に取り込む行為であることが浮かび上がりました。
プラネタリーヘルスの世界観を理解する重要な導入となり、続く医療・経済・社会実装の議論へとつながっていきました。


プログラム2|流域を治す医療とプラネタリーヘルス 
― 水脈からはじまる命の再生

プログラム2では、プラネタリードクターである医師の視点から 「身体」と「流域」のフラクタルな共通構造が語られ、「生命」として環境を観察する視座を共有しました。

登壇者

  • アクアメディカルクリニック院長
    プラネタリーヘルスイニシアティブ理事
    石黒伸

「流域を治す医療」という視点から、人の身体と自然環境の深い相似性が示されました。人の血管や循環系は流域構造とフラクタルに対応しており、身体の不調は「流れの停滞=硬化」から生じるという考え方です。
コンクリート化された都市や森林の荒廃が洪水や災害を招くように、人の身体でも循環の喪失が病を生む。
落ち葉による土壌再生、石積みによる流れの回復、通水による涵養といった自然再生の手法は、そのまま身体の回復原理と重なります。
環境を癒すことは身体を癒すことであり、流域の再生と人の健康は不可分であることが、医師の経験と洞察から、直感的かつ科学的に示されました。


プログラム3|田んぼという自然資本の社会実装

プログラム3では、「環境王国」の認定を受ける米どころの自治体と農林水産省的な立場から田んぼを 「自然資本」として捉え直し、経済・自治体・政策へとつなぐ視点が提示されました。

パネリストとして、

  • 農林水産省 農産局長 山口靖氏
  • NPO法人環境ルネッサンス代表理事「環境王国」顧問 鈴木 秀之氏
  • 環境王国加盟自治体
    福島県天栄村村長 添田 勝幸氏に代わり、天栄村役場産業課 課長 大木伸一氏
     群馬県川場村村長 外山 京太郎氏
     鳥取県江府町町長 白石 祐治氏に変わり、産業建設課長 末次義晃氏
  • 天籟株式会社代表取締役
    プラネタリーヘルスイニシアティブ理事
    桐村一平氏

続いて、**NPO法人 環境ルネッサンス「環境王国」を代表して、鈴木氏**より、「環境王国」の理念とこれまでの取り組みについて説明がありました。

環境王国は、農林水産業や里地里山の保全を通じて、地域の自然と暮らしを再生してきた自治体を認定する仕組みです。田んぼや森林、水源といった自然資本がもつ多面的な価値を、単なる保全対象ではなく、地域の誇りであり、持続可能な経済の基盤として位置づけてきました。その実践の積み重ねが、全国各地で確かな成果を生み出していることが紹介されました。

続いて、環境王国加盟自治体から、それぞれの地域の取り組みについて発表が行われました。
認定第一号である 天栄村(福島県)からは、漢方薬草を活用した有機農業や水源保全を軸に、人の健康と自然環境を同時に守る地域づくりの実践が紹介されました。

認定第二号である 川場村(群馬県)からは、村長の 外山氏 が登壇。世田谷区との都市農村連携や、全国トップの評価を受ける道の駅の取り組みを踏まえながら、環境と農業、特に米づくりを軸とした地域経営について語られました。

また、江府町(鳥取県)からは、江府町役場で長年農業事業に携わる 末次氏 が登壇し、奥大山の豊かな自然環境を活かした米づくりへの取り組みや、その背景にある想いが共有されました。

さらに、江府町とプラネタリーヘルス連携協定を結び、同町に移住しながら「田んぼDAO」などの先進的な実践を進めている 天籟株式会社桐村一平 氏も加わり、民間の立場から、田んぼを自然資本として評価し、GDPでは測れなかった価値を新たな経済に結びつける取り組みが紹介されました。
「農業は、生命維持産業である」
というメッセージが語られました。

最後に、農林水産省 農産局長の 山口靖 氏より、農政の立場からコメントがありました。
田んぼは食料生産の場であると同時に、多面的な機能を持つ基盤であり、こうした価値を活かす地域の取り組みを政策として後押ししていく重要性が示されました。

環境王国の各自治体は、日本の流域の源流を守る重要なエリアに位置しています。
プラネタリーヘルスの視点から、日本の米と稲作、そしてそれを支える流域の暮らしを再定義し、グローバルに共有していく――。その可能性が、本大会を通して示されました。

PHIは、環境王国をはじめとする各地域の実践と連携しながら、日本列島に蓄積されてきた知恵と仕組みを、人類共通の未来資産として世界にひらいていくことを目指していきます。

ビジョン:三つの柱|社会実装のために同時に動かす領域

最後に、代表理事の桐村里紗よりビジョンを語りました。
PHIが明確に実現しようと考えているのは、人が生きることで、人・地域・地球が同時に健全になっていく経済・社会基盤です。
大会を通じて、プラネタリーヘルスを社会に実装するためには、

  • ガバナンス
  • 教育
  • ビジネス

という三つの領域を 同時に変革し、動かす必要性が共有されました。
本大会では、プラネタリーヘルスを社会に実装していくために、
ガバナンス・教育・ビジネスという三つの領域を同時に動かしていく必要性が共有されました。

ガバナンスにおいては、分野や行政区分を越えた連携が不可欠です。
一方で、こうした越境的な取り組みは、行政の枠組みだけでは時間を要する場合も少なくありません。PHIは、民間の立場から、現場での実践を通して知見を蓄積し、分野横断・地域横断の連携を支える役割を担っていきます。

教育では、プラネタリーヘルスを、初等教育から大学、社会人教育までを貫く、新しい時代のリベラルアーツとして普及していくことを重視します。人・社会・自然を切り分けるのではなく、一つの生命システムとして捉える力を育てることが、その中核です。
その具体像として、PHIでは「プラネタリードクター」と「プラネタリーナース」というスキル概念を提示しています。社会や環境を含む生命システム全体を観察・診断し、再生に向けた処方を描く力、そして現場で日常的なケアを行い回復を支える力を、専門家だけでなく、誰もが身につけられるものとして社会にひらいていきます。

ビジネスは、プラネタリーヘルスを理念にとどめず、社会に定着させ、生命循環を回し続けるための装置です。企業活動をプラネタリーヘルスの原則に整合させ、再生型の経済を現実の選択肢として成立させていく。そのために、GDPでは測ることができなかった健康、幸福、文化、コミュニティ、自然の価値を、各地の実践の中で可視化・指標化し、新たな経済の軸として確立していくことを目指します。

PHIは、この三つの領域を切り離すことなく、一体として動かしながら、人が生きることで人・地域・地球が健全になっていく社会基盤を、実践を通してつくっていきます。


変わる。変態する。

閉会では、
理性を越えた 「変わるという決断」 が呼びかけられました。
科学、経済、社会の大変革のためには、人の大変革が不可欠であり、
文明の大変革の特異点を突破した今、変わり続ける人、変態し続ける個体しか生き残らない。
というメッセージとともに、「変態万歳」三唱が行われ、会場は大きな拍手と笑顔に包まれ、年次大会は力強く幕を閉じました。

懇親会も大いに盛り上がり、おかわりの万歳で締めくくりました。

おわりに

プラネタリーヘルスは、
誰か特別な人のための概念ではありません。

この地球に生きる、すべての人の教養であり、実践です。

2026年。
ここから、プラネタリーヘルスは一気に社会へと展開していきます。
その動きを、皆さんとともに進めていきたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

アーカイブ動画は、後日配信予定です。


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