
人の健康・ウェルビーイングを実現するために、医師である私は、白衣を脱ぎました。
私は「人が当たり前に健康でいられる世界を実現したい」という想いから医師になりましたが、医療が進歩しても、がんも認知症も、メンタル疾患も増え続けています。社会の中で何気なく生きるだけで、病人が量産されているとも言える現代、病院で病気の人を待っているだけでは、医師は無力です。
コロナ禍に、社会全体が病理的状態になったとき、自分一人で健康に幸せになれないことに気づいたのではないでしょうか。
人は、環境と一体です。
人というシステムは、より大きなシステムの中にあり、その全体は繋がっています。人の心身、家庭、コミュニティ、経済、社会、そして生態系、地球全体のシステムは、繋がりあっています。
これまでの医療は、人だけを最適化して健全にしよう。しかも、本当はつながり合う心身を切り分け、臓器にわけ、臓器の中の細胞の中のターゲットに・・・と、どんどんと細かく要素に還元して、その部分だけを最適化しようとしてきました。
近代科学は、いずれもこの要素還元主義的細部にフォーカスしていくアプローチでした。
その一方で、多様な要素がつながり合い、重なり合い、響き合う全体性を見失っていました。
全体性の中に部分があり、部分は全体につながっている。
こうした当たり前のものの見方ができなくなってしまったことが、世界をバラバラにして、人と地球の病理を引き起こしている根本原因だと考えます。
人類は局所しか見えなくなり、利己的になり、孤独になっていきました。
人を含む地球全体を1つの有機的なシステムと捉え、その全体の健全性、ウェルビーイングを実現することを「プラネタリーヘルス(惑星の健康)」と言います。
今、国際的に掲げられた最も統合的なヘルスケア・ウェルビーイングの大目標です。
これを理解し、実現するには、私たち自身の大転換が必要です。
SDGsの各項目を有機的に繋ぎ、ネイチャーポジティブ経済への移行の上に成立するプラネタリーヘルスは、全分野、全コミュニティ、全世代で立場をこえて連携することで実現ができます。
決して、地球のための自己犠牲ではありません。
バラバラに分断した世界を再統合し、自分と世界の有機的なつながりに気づく時、地球を慈しむ行為は決して利他的な自己犠牲ではなく、全て自分ごとなのだと腑に落ちます。
論理的に頭で理解することに加えて、身体知性をもって山で、川で、海で、日々の営みの中でつながりに気づき続けていくことが大切です。
そして、古から紡がれてきた先人たちの叡智と最新の科学を融合させながら、人が生きることで人も地球も病気になっていく世界から、人が生きることで人も地球も健康に、ウェルビーイングが実現される世界をつくっていきたいのです。
人類の可能性は無限大です。
人が破壊者ではなく、創造的再生者として生きることは、この地球の希望であると考えています。
皆様と共に、プラネタリーヘルスという大きな大きな目標を実現したいと思います。
一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブ
代表理事 桐村里紗
プロフィール

代表理事 桐村里紗 Lisa Kirimura M.D.
2004年、愛媛大学医学部医学科卒業後、内科診療に従事。分子整合栄養医学や腸内細菌学等を用いた予防医療から生活習慣病、在宅診療まで総合的に臨床医療を行う。
2015年、ベルリンで開催されたWorld Health Summitにてプラネタリーヘルスに出会う。
2018年、天籟株式会社を設立し、プラネタリーヘルスを推進する。
2022年より、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻道徳感情数理工学の主宰とともに共同研究員として、量子ゲート数理「四則和算」をもとに生命システムを再定義し、プラネタリーヘルスの応用研究を行う。
2022年11月、鳥取県江府町とプラネタリーヘルス連携協定を締結。移住の上、天籟本社移転。
2023年9月、公益財団法人日本ヘルスケア協会内にプラネタリーヘルスイニシアティブを設立し、代表理事に就任。2025年4月、一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブとして独立。
主な著書『腸と森の「土」を育てる〜微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)ほか
主な番組出演 フジテレビ「ホンマでっか!?TV」腸活評論家として準レギュラー出演、NHK「チコちゃんに叱られる」ほか